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料理ジャンル

バッテラ:大阪の粋な押しずし

江戸時代後期、大阪湾は豊かな漁場であり、人々の食卓には新鮮な魚介類が並んでいました。特に鯖は身近な食材で、様々な料理に利用されていました。当時、人々は貴重な食材を無駄なく大切に食す知恵を育んでおり、保存食の開発にも熱心に取り組んでいました。 バッテラは、このような背景の中で生まれた押し寿司です。酢で〆た鯖と酢飯を組み合わせることで、保存性を高め、日持ちのする料理として重宝されました。生まれたばかりのバッテラは、小舟のような形をした専用の押し型を使って作られていました。この型が、ポルトガル語で小舟を意味する「バッテラ」に形が似ていたことから、この名がついたと伝えられています。 当時のバッテラは、今とは少し異なる姿でした。押し寿司とはいえ、現在のもののようにしっかりと押し固められてはおらず、むしろふんわりとした食感だったと考えられています。また、具材も鯖だけでなく、季節の野菜や貝類なども一緒に詰められていたようです。 時代が進むにつれ、バッテラの形は徐々に変化していきます。人々はより手軽に、効率的にバッテラを作る方法を模索し、小舟型から現在の四角い形へと変わっていきました。四角い形は、型崩れしにくく、切り分けもしやすいという利点がありました。また、大量生産にも適していたため、広く普及していく要因となりました。 形は変わっても、バッテラという名前と、酢と鯖とご飯を組み合わせるという基本的な製法は、変わらず受け継がれてきました。大阪の豊かな食文化を象徴する料理として、人々に深く愛され、今日でも様々な場面で楽しまれています。家庭で作られることもあれば、寿司店や料亭で提供されることもあり、時代に合わせて様々なバリエーションが生まれています。 バッテラは、先人たちの知恵と工夫が詰まった、歴史ある押し寿司です。その独特の風味と食感は、今も昔も変わらず、人々を魅了し続けています。