
鉄火:日本の食卓を彩る赤
熱い勝負の世界と、マグロの鮮やかな赤。その二つが結びついて生まれた言葉、それが「鉄火」です。 その由来には、いくつかの説があります。
一つは、博打に興じる人々の姿に由来するという説です。かつて、博打が行われる場所は、人々の熱気と喧騒で満ち溢れていました。そのような場所を「鉄火場」と呼びました。そして、そこに集まる人々は、勝負に夢中になるあまり、食事の時間さえ惜しむほどでした。そこで、手軽に食べられる握り飯に、マグロの切り身を乗せて素早く食べるという習慣が生まれたのです。握り飯とマグロの組み合わせは、鉄火場という喧騒の場で好まれた食事となり、いつしか「鉄火巻き」と呼ばれるようになりました。
もう一つの説は、マグロの見た目そのものに由来するというものです。マグロの切り身の鮮やかな赤色は、まるで焼けた鉄の色を思わせることから、「鉄火」と呼ばれるようになったというのです。鉄を熱した時の色は、力強さと激しさを感じさせます。マグロの赤色もまた、同じように力強く、見るものを惹きつける力があります。
どちらの説にも共通するのは、マグロの赤色が重要な要素となっている点です。そして、「鉄火」という言葉の持つ力強い響きも、マグロの力強い赤色と重なります。
今日では、「鉄火丼」や「鉄火巻き」など、様々な料理名に使われている「鉄火」という言葉。その中には、熱気に満ちた勝負の世界、そしてマグロの鮮やかな赤という、日本の食文化の歴史が詰まっていると言えるでしょう。