
あすか鍋:牛乳の優しい味わいの郷土料理
あすか鍋とは、奈良県飛鳥地方に古くから伝わる郷土料理です。鶏肉や旬の野菜を牛乳でじっくりと煮込んだ、乳白色の優しい味わいが特徴の鍋料理です。飛鳥地方といえば、日本の歴史の大きな転換期である飛鳥時代を思い浮かべる方も多いでしょう。まさにその時代、仏教伝来とともに肉食が禁じられた時代に、人々は動物性たんぱく質をどのように摂取していたのでしょうか。その答えの一つがこのあすか鍋です。当時、貴重な栄養源であった牛乳を利用することで、肉食を禁じられた中でも必要な栄養を補っていたと伝えられています。
あすか鍋の最大の特徴は、牛乳のまろやかな風味と、野菜本来の甘みが溶け出した、滋味深い味わいにあります。鶏肉から出るうまみも加わり、複雑ながらも調和のとれた奥深い味わいを生み出します。使用する野菜は、里芋や大根、人参など、その季節で手に入りやすい根菜類が中心です。それぞれの家庭で代々受け継がれてきた独自のレシピがあり、牛乳の代わりに豆乳を使ったり、鶏肉の代わりに白身魚を使ったりと、バリエーションも豊かです。また、味付けも家庭によって異なり、味噌や醤油で味を調える家庭もあれば、素材本来の味を楽しむために、味付けをほとんどしない家庭もあります。
飛鳥地方では、古くから農作業を終えた後の一家団欒の食卓に、あすか鍋が並ぶことが多かったそうです。家族みんなで温かい鍋を囲み、その日の出来事を語り合う、そんな風景が目に浮かぶような、心温まる料理です。現代の忙しい生活の中でも、あすか鍋を味わうことで、飛鳥の人々の温かさや、歴史の重みを感じることができるでしょう。飛鳥地方を訪れた際には、ぜひこの滋味深いあすか鍋を味わってみてください。