楊枝

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調理器具

和の香り、黒文字の奥深き世界

黒文字、その名は木肌に浮かぶ黒い斑模様からきています。クロモジというクスノキ科の落葉低木がその原料です。日本の山や野に自然と生えるこの木は、昔から人々の暮らしに寄り添ってきました。その歴史は古く、平安時代まで遡ります。当時の記録には、既に歯磨きとして使われていたことが記されています。高貴な身分の人々は、そのさわやかな香りと共に、クロモジが持つばい菌を退ける力に気づき、口の中の健康を守るために用いていたのでしょう。口臭予防や歯周病予防にも効果があるとされ、現代でも注目されています。また、その香りは心を落ち着かせる力もあるとされ、お茶をたしなむ席で使う楊枝としても大切にされてきました。静寂な茶室に漂うクロモジの香りは、心を和ませ、茶の湯の世界を一層奥深いものにしていたに違いありません。時代は下り、江戸時代になると、黒文字は庶民の生活にも浸透していきます。現在も、和菓子に添えられたり、高級な楊枝として使われたりと、日本の食卓を彩る存在として、私たちの暮らしに深く関わっています。茶道や香道といった伝統文化にも欠かせないものであり、その上品な香りと使い心地は、今も昔も変わらず人々を魅了し続けています。特に、飛騨高山や京都などでは、伝統的な製法で丁寧に作られた黒文字の楊枝が今もなお受け継がれており、日本の伝統工芸品として高い評価を得ています。現代の生活様式においても、黒文字の持つ自然の香りと抗菌作用は、私たちの健康と心に安らぎを与えてくれる貴重な存在と言えるでしょう。