
発酵の妙味 いずし
いずしは、魚と米飯、麹を乳酸発酵させることで保存性を高めた、日本の伝統的な発酵食品です。その起源は稲作文化の伝来と深く結びついており、稲作と共に日本に広まったと考えられています。特に北海道や東北地方のような寒冷地で古くから作られてきました。冬の厳しい寒さの中では新鮮な食材を手に入れるのが難しかったため、いずしのような保存食は貴重な食料源でした。各家庭で独自の製法が代々受け継がれ、その土地の気候や風土、手に入る材料に合わせて様々な種類のいずしが作られてきました。
いずしの名前の由来は諸説ありますが、「飯寿司(いずし)」という字が示す通り、飯、すなわち米飯を用いることが大きな特徴です。魚介類と米飯、そして麹を混ぜ合わせ、乳酸発酵させることで、独特の酸味と風味を持つ保存食が生まれます。この自然の力を利用した発酵技術は、冷蔵庫のない時代において画期的な保存方法でした。野菜を塩漬けにするのとは異なり、魚介類という傷みやすい食材を長期保存することを可能にしたのです。先人たちの知恵と工夫が凝縮された、まさに発酵技術の結晶と言えるでしょう。
いずしは単なる保存食ではなく、発酵によって生まれる独特の旨味も大きな魅力です。魚介類のたんぱく質が麹の酵素によって分解され、アミノ酸が生み出されます。このアミノ酸が、いずしに独特の風味とコクを与えます。また、乳酸発酵によって生まれる酸味は、食欲を増進させる効果もあります。現代では冷蔵庫の普及により保存食の必要性は薄れましたが、いずしは今もなお、その独特の風味を求める人々に愛され続けています。地域独自の伝統的な食文化として、大切に守っていくべき日本の食遺産と言えるでしょう。