
きず:料理に欠かせない二つの顔
「きず」という言葉を耳にした時、何を思い浮かべるでしょうか?怪我?それとも傷?いいえ、料理の世界では「きず」は全く異なる意味を持ちます。同じ読み方でありながら、二つの異なるものを指すのです。一つは柑橘類、例えば柚子や橙、酢橘といった果実を搾った果汁のことで、「木酢(きず)」と呼ばれます。まるで果実から生まれた露のような、爽やかな香りと酸味が特徴です。焼き魚にかけたり、鍋物に加えたりすることで、素材本来の味を引き立て、風味を豊かにします。特に秋冬の料理には欠かせない存在と言えるでしょう。もう一つは、「生酢(きず)」と呼ばれるもので、こちらは酢そのものを指します。穀物や果実を発酵させて作る酢は、和食の要となる調味料です。寿司飯にはもちろんのこと、酢の物や煮物など、様々な料理に酸味とコクを加えます。また、食材の鮮度を保つ効果も期待でき、古くから保存食作りにも活用されてきました。「木酢」と「生酢」、どちらも「きず」と呼ばれますが、その用途は大きく異なります。「木酢」は素材の味を引き立てる名脇役、「生酢」は料理全体の味を調える立役者と言えるでしょう。このように、同じ「きず」という名前を持ちながらも、全く異なる二つの存在。日本の食文化の奥深さを垣間見ることができます。柑橘の爽やかな風味を凝縮した「木酢」と、発酵の力を秘めた「生酢」。この二つの「きず」を使い分けることで、料理の味わいはさらに広がりを見せることでしょう。ぜひ、日々の食卓で「きず」の奥深い世界を体験してみてください。