
普茶料理:五感で味わう禅の心
普茶料理とは、中国から伝わった、仏教の教えに基づいた、肉や魚介類を使わない料理です。その発祥は中国福建省の禅宗寺院ですが、日本に広めたのは、隠元隆琦禅師というお坊様です。隠元禅師は、明の時代末期から清の時代初期にかけての混乱を避けるため、日本にやって来ました。そして、寛文元年(1661年)に後水尾上皇から京都の宇治の土地を賜り、黄檗山萬福寺というお寺を開きました。普茶料理は、この萬福寺で修行するお坊さんたちにふるまわれたのが始まりです。中国の料理と日本の精進料理が合わさって生まれた、独特の料理と言えるでしょう。「普茶」という言葉は、禅宗のお寺で、大勢の人にお茶をふるまう儀式を意味します。普茶料理も、皆で同じものを一緒に食べることで、分け隔てなく慈しみの心を育むという、禅の精神に基づいています。肉や魚介類はもちろんのこと、ネギ、ニラ、ラッキョウ、ニンニク、タマネギといった香りの強い野菜も使いません。豆腐や野菜、穀物などを使い、素材そのものの持ち味を活かした、滋味深く彩り豊かな料理に仕上げます。調理法も、煮たり蒸したり揚げたりと、素材本来の味を引き出すシンプルな方法が中心です。また、料理は大きな丸いテーブルに並べられ、参加者全員で取り分けて食べるという形式がとられます。これは、共に食事をすることで一体感を深め、禅の教えをより深く理解するためです。このように、普茶料理は、単なる食事ではなく、禅の精神と深く結びついた、奥深い文化なのです。