大名おろし

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大名おろし:魚のぜいたくな三枚おろし

「大名おろし」という耳慣れない言葉に、どのようなおろし方か想像もつかない方もいらっしゃるかもしれません。この名前の由来は、贅沢なおろし方にあります。 私たちがよく知る三枚おろしは、魚の背骨と腹骨の両側から包丁を入れて、身を骨から剥がすように切り離していきます。しかし、大名おろしは背骨側から一気に刃を入れ、腹まで切り進める大胆なおろし方です。そのため、骨に残る身の量は多く、切り取られる身の部分は少し小さくなります。一見すると、何とももったいないように思えるかもしれません。 しかし、このおろし方には、魚を大切に扱う、古き良き時代の精神が込められています。昔の日本では、武家社会において魚の調理は、武士の作法の一つとして大切にされていました。限られた食材を無駄なく使い切る技術は、まさに生きる知恵だったのです。大名おろしで骨に残った身は、捨てられることなく、様々な料理に活用されました。魚のあら汁や、つみれ、炊き込みご飯など、骨周りの旨味が溶け出した料理は格別の味わいでした。 現代社会においては、食品ロスが問題視されています。食べられるのに捨てられてしまう食品の量は、想像以上に多いのが現状です。大名おろしは、食材を最大限に生かすという、現代にも通じる大切な考え方を私たちに教えてくれます。骨に残った身も余すことなく活用することで、魚の旨味を存分に味わうことができ、食品ロス削減にも貢献できるのです。大名おろしは、先人の知恵が詰まった、無駄のない調理法と言えるでしょう。