十六夜

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盛り付け

十六夜と食卓:十五夜から少し欠けた魅力

陰暦十六日の夜の月を十六夜(いざよい)と呼びます。十五夜は満月ですが、十六夜は満月を少し過ぎた月です。十五夜より少しだけ欠けた十六夜の月を、わざわざ別の名で呼ぶところに、日本人の自然に対する細やかな感性が表れています。完全な丸ではなく、少しだけ欠けた月にこそ美しさを見出す心は、日本文化全体に流れる美意識と言えるでしょう。 この「少し足りない」という感覚は、食の世界にも通じるところがあります。例えば、料理を盛り付ける際に、お皿の余白を少し残すことで、料理全体がより美しく見えることがあります。これは、見る人の想像力を掻き立て、料理への期待感を高める効果があります。また、食材をすべて見せるのではなく、一部を隠すことで、奥行きや立体感を出し、より深い味わいを演出することもできます。まるで、隠された部分の味を想像することで、実際に口にした時よりも豊かな味わいを感じられるかのようです。 さらに、旬の食材を少しだけ早く味わう、あるいは旬を少しだけ過ぎた頃に味わうことで、旬のピークとは異なる繊細な味わいを楽しむことができます。まさに、満月よりも少しだけ欠けた十六夜の月を愛でるように、わずかな変化の中にこそ真の美しさを見出すことができるのです。十六夜という呼び名は、私たちに日本文化特有の奥ゆかしさや、侘び寂びの精神を思い起こさせてくれます。完全なものよりも、少し足りないものにこそ、深い味わいがあるということを教えてくれるのです。