
料理の隠し味「忍び」:風味を高める技
「忍び」とは、日本料理における隠れた技法で、少量の特定の食材を加えることで、料理全体の風味をより深く、豊かにすることを指します。まるで忍者が闇に潜み、人知れず任務を遂行するように、少量の食材が表に出ることなく、料理全体に影響を与えることから、「忍び」と呼ばれるようになりました。
例えば、すりおろした生姜や山葵を少量加えることが代表的な例です。これらの食材は、それ自体が強い主張をするのではなく、他の食材の持ち味を引き立て、全体の味わいを調和させる、いわば黒衣のような存在です。魚介類を使った料理に生姜を忍ばせれば生臭さを抑え、さっぱりとした後味に。また、脂の乗った肉料理に山葵を添えれば、くどさを和らげ、風味を際立たせることができます。
「忍び」で用いられる食材は香味野菜や香辛料など多岐に渡り、その効果も様々です。昆布だしに干し椎茸を一片加えることで、旨味に奥行きを与えることも「忍び」のひとつ。また、煮物に隠し味として日本酒を少量加えれば、素材の風味を引き出し、まろやかな味わいに仕上がります。このように「忍び」は、素材本来の味を最大限に活かすための、日本の食文化が生み出した繊細な技法と言えるでしょう。古くから受け継がれてきたこの技は、日本人の繊細な味覚を育み、今日まで様々な料理に活用されています。まさに、目立たぬところで料理を支える縁の下の力持ちと言えるでしょう。