
秋の滋味、鴫焼きの魅力
鴫焼き、その風雅な響きを持つ料理名は、かつて空を舞う渡り鳥、鴫の肉を野菜の茄子に詰めて焼き上げたことに由来します。秋風が吹き始める頃、はるばる海を渡って日本に飛来する鴫は、季節の訪れを告げる貴重な食材として古くから人々に愛されてきました。特にその肉は、独特の繊細な風味をもち、秋の恵みとして珍重されたのです。
調理の際には、丸ごと一羽の鴫を丁寧に捌き、その肉を油でじっくりと炒めて香ばしさを引き出します。そして、旬を迎えたみずみずしい茄子に、この香ばしい鴫の肉を詰め込み、炭火でじっくりと焼き上げるのです。焼き上がった鴫焼きは、茄子のとろけるような食感と鴫の滋味深い風味が見事に調和し、まさに秋の到来を祝うにふさわしい一品でした。
古くは貴族や武士など身分の高い人々の間で好まれ、季節の移ろいを感じさせる特別な料理として宴席などで振る舞われていたと伝えられています。また、秋の収穫を感謝する祭りなどでも、地域の人々が集まり鴫焼きを囲んで秋の恵みを分かち合ったと言われています。
しかし、時代の流れとともに鴫の数は減少し、現在ではその姿を見ること、そして味わうことは大変難しくなってしまいました。そのため、現代の鴫焼きは、合鴨や鶏肉といった、より身近な鳥肉を用いるのが一般的となっています。鴨肉を用いれば、脂の乗った濃厚な味わいが茄子とよく合い、鶏肉を用いれば、あっさりとした上品な風味に仕上がります。
材料は時代に合わせて変化しても、鴫焼きという名前には、今もなお、秋の訪れを告げる豊かな食文化の記憶が大切に受け継がれています。私たちはその名前に耳を傾けることで、かつて人々が自然の恵みに感謝し、季節の移ろいを慈しんでいた様子を思い描くことができるのです。