
きじ焼き:歴史と味わいの深淵
香ばしい醤油の匂いと、とろりとした甘辛いタレが食欲をそそるきじ焼き。名前を聞くだけで、つやつやに焼き上げられた鶏肉や白身魚の照り焼きが目に浮かびます。きじ焼きとは、鶏肉や魚介類を、醤油、みりん、酒で作った合わせ調味料に漬け込み、弱火でじっくりと焼き上げた料理です。
その歴史は古く、室町時代から江戸時代にかけて庶民の間で生まれました。当時、きじは鳥類の中でも最も美味しいものとされ、大変貴重な食材でした。しかし、希少なきじは庶民には高価で、なかなか口にすることができませんでした。そこで、きじの風味をなんとか再現しようと、より手に入りやすい鶏肉や魚を使って作られたのが、きじ焼きの始まりです。
人々は、憧れのきじの肉の味を体験したいと強く願っていました。その願いが、この料理を生み出したと言えるでしょう。鶏肉やきじ以外の鳥肉、魚などを使い、きじの肉に似せて調理することで、庶民でも手の届く、美味しい料理として親しまれるようになりました。きじの肉を模倣して作られたことから、「きじ焼き」という名前が定着していったのです。
きじ焼きは、家庭でも簡単に作ることができます。鶏肉に砂糖と醤油で下味をつけ、フライパンで皮目から焼いていきます。焼き色がついたら裏返し、酒、みりん、醤油を合わせた調味料を加えて煮詰めれば出来上がりです。ご飯のおかずとしてはもちろん、お酒のおつまみにもぴったりです。また、魚を使う場合は、淡白な白身魚がおすすめです。ぶりやたらなど、脂の乗った魚を使うと、また違った美味しさが楽しめます。時代とともに、家庭の味として様々なアレンジが加えられ、現代に受け継がれています。