加賀百万石の滋味、治部煮
料理を知りたい
先生、「治部煮」ってどんな料理か教えてください。
料理研究家
治部煮は金沢の郷土料理でね、カモ肉にそば粉か小麦粉をまぶして、醤油味の汁でさっと煮たものだよ。ゆり根やすだれ麩、セリなんかを一緒に煮て、お椀に盛るんだ。
料理を知りたい
カモ肉に粉をまぶすんですね。どうしてですか?
料理研究家
粉をまぶすことで、カモ肉が柔らかくなるし、とろみがついて汁とよく絡むんだよ。だから味がしっかりとしみ込むんだね。
治部煮とは。
金沢の郷土料理である「治部煮」について説明します。治部煮は、鴨肉にそば粉または小麦粉をまぶし、醤油味の煮汁でさっと煮た料理です。下ごしらえしたゆり根と、金沢の特産品であるすだれ麩、そしてせりなどを合わせてお椀に盛り付けます。
治部煮の由来
治部煮とは、石川県金沢市を代表する郷土料理の一つで、とろみのある汁で煮込んだ鴨肉と野菜が特徴です。その名前の由来には、いくつかの説が伝えられています。中でも有力とされているのは、安土桃山時代まで遡ります。関ヶ原の合戦で徳川家康に味方した武将、前田利家が慶長4年(1599年)に加賀藩百万石の領主として金沢城に入城した際、岡山出身の郷士、津田治部少輔がもてなした料理が起源というものです。
治部少輔が考案した料理は、鴨肉に小麦粉をまぶして焼き、だし汁で煮込み、野菜や麩などを加えたものでした。この料理を食した利家は、その滋味あふれる味わいにすっかり魅了され、たちまち気に入ってしまったそうです。その後、この料理は津田治部少輔の名にちなんで「治部煮」と呼ばれるようになり、金沢の武家社会を中心に広まっていきました。とろみのある汁は体を温める効果があり、冬の寒さが厳しい北陸地方の気候にもよく合っていたため、庶民の間にも定着していったと考えられています。
時代と共に、鴨肉だけでなく、鶏肉や山鳥などの肉が使われるようになり、野菜も季節のものを取り入れるなど、様々な工夫が加えられて、現在の治部煮の原型が完成しました。金沢では、家庭料理としても親しまれており、各家庭で受け継がれた独自の味が楽しまれています。また、料亭や旅館などでも提供されており、金沢を訪れる観光客にも人気の郷土料理となっています。現在では、金沢を代表する郷土料理として全国的に知られるようになり、その独特の味わいは多くの人々を魅了し続けています。
項目 | 内容 |
---|---|
料理名 | 治部煮 |
地域 | 石川県金沢市 |
特徴 | とろみのある汁で煮込んだ鴨肉と野菜 |
由来 | 安土桃山時代、前田利家をもてなした津田治部少輔の料理 |
調理法 | 鴨肉に小麦粉をまぶして焼き、だし汁で煮込み、野菜や麩などを加える |
普及 | 武家社会から庶民へ、冬の寒さに合う料理として広まる |
発展 | 鶏肉や山鳥、季節の野菜など、様々な工夫が加えられる |
現状 | 家庭料理、料亭、旅館などで提供され、全国的に知られる郷土料理 |
治部煮の特徴
治部煮とは、石川県の郷土料理であり、小麦粉もしくはそば粉をまぶした鴨肉を、醤油をベースとした出汁で煮込んだ料理です。 最大の特徴は、鴨肉にまぶした粉によるとろみです。鴨肉から出る脂と、粉が煮汁に溶け出すことで生まれるとろみは、独特のまろやかさとコクを生み出します。このとろみが醤油ベースの煮汁と絡み合い、奥深い味わいを作り上げます。
治部煮のもう一つの特徴は、鴨肉以外にも様々な具材が使われていることです。代表的な具材として、ゆり根、すだれ麩、せりなどが挙げられます。ゆり根はホクホクとした食感と、ほのかな甘みを持ち、煮汁に上品な甘みを添えます。すだれ麩は、独特のつるりとした舌触りと、煮汁をたっぷり吸い込むことで、じゅわっとした美味しさを楽しめます。また、すだれ麩に味が染み込むことで生まれる奥深い味わいも魅力の一つです。せりは、爽やかな香りとシャキシャキとした食感がアクセントとなり、こってりとした鴨肉や、まろやかな煮汁とのバランスを取っています。それぞれの具材が持つ個性を活かしながら、全体として調和のとれた味わいに仕上がっているのが治部煮の魅力です。
さらに、治部煮は見た目にも美しい料理です。鴨肉の濃い赤色、ゆり根の白色、すだれ麩の茶色、せりの緑色が美しく調和し、食欲をそそります。彩り豊かで、目でも楽しめる料理と言えるでしょう。温かいまま提供されることが多く、寒い時期にぴったりの一品です。椀に盛り付けられた治部煮は、上品な見た目と香りで、おもてなし料理としても喜ばれます。
項目 | 詳細 |
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料理名 | 治部煮 |
地域 | 石川県 |
特徴 | 鴨肉に小麦粉/そば粉をまぶし醤油ベースの出汁で煮込んだ料理。 鴨肉から出る脂と粉でとろみが生まれる。 |
味 | 独特のまろやかさとコク、奥深い味わい |
具材 | 鴨肉, ゆり根, すだれ麩, せり |
ゆり根 | ホクホクとした食感、ほのかな甘み |
すだれ麩 | つるりとした舌触り、煮汁を吸ってじゅわっとした食感、味が染み込む |
せり | 爽やかな香りとシャキシャキとした食感、こってりとした鴨肉や煮汁とのバランス |
見た目 | 鴨肉の赤、ゆり根の白、すだれ麩の茶、せりの緑が調和。彩り豊か。 |
提供温度 | 温かい |
その他 | 寒い時期にぴったり、おもてなし料理 |
治部煮を味わう
治部煮は、加賀百万石の金沢を代表する郷土料理です。とろりとした片栗粉のとろみと、鴨肉や野菜の滋味深い味わいが特徴で、料亭や旅館で提供されることが多い逸品です。ですが、家庭でも思いのほか手軽に作ることができます。
主となる鴨肉は、入手が難しい場合は鶏肉で代用しても構いません。鶏肉を使う場合は、もも肉を使うと鴨肉に近いコクと風味を楽しめます。他に欠かせないのが、加賀野菜の一つであるすだれ麩です。独特の歯ごたえと煮汁を吸い込んだ味わいは、治部煮にはなくてはならないものです。すだれ麩は近年、大きな食品店などでも手に入るようになりました。また、ゆり根も加えると、ホクホクとした食感が加わり、より一層美味しくなります。
家庭で作る際のポイントは、それぞれの具材の下ごしらえを丁寧に行うことです。鴨肉を使う場合は、熱湯を全体にかけて霜降りすることで、気になる臭みを取り除きます。鶏肉の場合は、余分な脂を取り除き、食べやすい大きさに切っておきます。野菜は、火の通りが均一になるように大きさを揃えて切ることが大切です。
煮汁は、醤油、砂糖、みりん、だし汁を合わせます。醤油は、濃口醤油を使うのが一般的ですが、薄口醤油を使うと、より上品な仕上がりになります。砂糖は、上白糖のほか、ざらめを使うとコクが出ます。みりんは、本みりんを使うことで、風味と照りが増します。だし汁は、昆布と鰹節で丁寧にひいたものを使うと、より深い味わいになります。これらの材料を鍋に入れて一煮立ちさせ、そこに下ごしらえした具材を加えて、弱火でじっくりと煮込みます。
最後に、水溶き片栗粉でとろみをつければ完成です。熱々の治部煮を椀によそい、すりおろしたわさびを添えれば、体の芯から温まる、金沢の粋を味わうことができます。
項目 | 詳細 |
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料理名 | 治部煮 |
特徴 | とろりとした片栗粉のとろみと、鴨肉や野菜の滋味深い味わい |
主材料 | 鴨肉(鶏もも肉で代用可)、すだれ麩、ゆり根など |
鴨肉の下ごしらえ | 熱湯をかけて霜降りし、臭みを取り除く |
鶏肉の下ごしらえ | 余分な脂を取り除き、食べやすい大きさに切る |
野菜の下ごしらえ | 火の通りが均一になるように大きさを揃えて切る |
煮汁 | 醤油(濃口醤油 or 薄口醤油)、砂糖(上白糖 or ざらめ)、みりん(本みりん)、だし汁(昆布と鰹節) |
作り方 | 煮汁の材料を鍋に入れて一煮立ちさせ、下ごしらえした具材を加えて弱火で煮込み、最後に水溶き片栗粉でとろみを付ける |
仕上げ | 熱々を椀によそい、すりおろしたわさびを添える |
治部煮と金沢の文化
治部煮は、加賀百万石の城下町として栄えた金沢の食文化を代表する郷土料理です。その歴史は古く、加賀藩の五代藩主、前田綱紀の時代にまで遡ると言われています。藩の料理人が、鴨肉を用いた汁物を献上したところ、綱紀公は大変気に入り、その汁物に「じぶに」という名を授けました。この「じぶに」が、現在の治部煮の原型になったと伝えられています。
治部煮の特徴は、とろみのある汁と、鴨肉や野菜の絶妙な組み合わせです。小麦粉をまぶした鴨肉や、麩、しいたけ、里芋などの野菜を、だし汁で煮込み、とろみをつけます。このとろみは、片栗粉ではなく、小麦粉や米粉を用いることで、独特のまろやかさを生み出しています。また、加賀野菜と呼ばれる、金沢独自の野菜を使うことで、さらに風味豊かな味わいに仕上がります。
治部煮は、祝い事や特別な行事など、金沢の人々にとって大切な席で振る舞われる料理でもあります。お正月やお祭り、冠婚葬祭など、様々な場面で食卓を彩り、金沢の伝統と歴史を伝える役割を担っています。家庭でもよく作られる料理であり、各家庭によって味付けや具材が少しずつ異なるのも、治部煮の魅力の一つです。
近年では、伝統的な治部煮に加え、現代風にアレンジされた創作治部煮も登場しています。新しい食材を取り入れたり、盛り付けを工夫したりと、様々なバリエーションが生まれており、金沢の食文化に新たな風を吹き込んでいます。金沢を訪れた際には、ぜひ老舗料亭で伝統的な治部煮を味わってみてください。そして、機会があれば、創作治部煮にも挑戦し、金沢の食文化の進化を感じてみてください。加賀百万石の文化と歴史に思いを馳せながら、ゆっくりと味わう治部煮は、きっと忘れられない思い出となるでしょう。
項目 | 内容 |
---|---|
料理名 | 治部煮 |
歴史 | 加賀藩五代藩主、前田綱紀の時代に由来 |
特徴 | とろみのある汁、鴨肉や野菜の組み合わせ、小麦粉/米粉による独特なとろみ、加賀野菜の使用 |
提供場面 | 祝い事、特別な行事、お正月、お祭り、冠婚葬祭など |
種類 | 伝統的な治部煮、現代風にアレンジされた創作治部煮 |
家庭で作る治部煮
{家庭で手軽に本格、治部煮に挑戦!}
治部煮と聞くと、料亭でいただく高級料理のイメージで、家庭で作るのは難しいと思われがちですが、実はそんなことはありません。いくつかのコツさえ掴めば、家庭でも料亭の味に負けない本格的な治部煮を作ることができます。ぜひ、家族みんなで囲んで温かい治部煮を味わってみてください。
まずは、材料の準備から。鴨肉は皮面を下にして焼き色がつくまで軽く焼き、食べやすい大きさに切ります。焼き目をつけることで、鴨肉の旨みが閉じ込められ、より風味豊かに仕上がります。次に、鴨肉にそば粉、もしくは小麦粉を薄くまぶします。こうすることで、鴨肉が柔らかく仕上がり、とろみがついた煮汁がよく絡みます。ゆり根は一枚ずつはがし、水にさらしてアクを抜きます。すだれ麩は水で戻し、軽く絞っておきます。せりは根元を切り落とし、食べやすい長さに切っておきましょう。
いよいよ、煮込みに入ります。鍋にだし汁、しょうゆ、砂糖、みりんを入れ、煮立てます。そこに、焼き目をつけた鴨肉、ゆり根、すだれ麩を加えて、弱火でじっくりと煮込んでいきます。鴨肉に火が通り過ぎると固くなってしまうので、注意が必要です。ゆり根は煮崩れしやすいので、優しく扱うようにしましょう。すだれ麩は煮汁をたっぷり吸わせるようにします。それぞれの具材に火が通ったら、最後にせりを加えてさっと煮れば完成です。せりは火を通しすぎると香りが飛んでしまうので、鮮やかな緑色が残る程度に仕上げるのがポイントです。
器に盛り付け、熱々を召し上がってください。とろりとろけるような鴨肉と、ホクホクのゆり根、だし汁をたっぷり含んだすだれ麩、そして、せりの爽やかな香りが絶妙に合わさった、滋味深い味わいが口いっぱいに広がります。お好みで、わさびやしょうがを添えても美味しくいただけます。少しの手間をかけるだけで、本格的な治部煮が家庭で手軽に楽しめます。ぜひ、お試しください。
材料 | 下準備 | 調理 | ポイント |
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鴨肉 | 皮面を下にして焼き色がつくまで軽く焼く。食べやすい大きさに切る。そば粉、もしくは小麦粉を薄くまぶす。 | 焼き目をつけた鴨肉を加えて弱火でじっくり煮込む。 | 焼き目をつけることで旨みを閉じ込め風味豊かに。粉をまぶすことで柔らかく、煮汁がよく絡む。火を通し過ぎると固くなるので注意。 |
ゆり根 | 一枚ずつはがし、水にさらしてアクを抜く。 | 鴨肉と一緒に加えて弱火でじっくり煮込む。 | 煮崩れしやすいので優しく扱う。 |
すだれ麩 | 水で戻し、軽く絞る。 | 鴨肉と一緒に加えて弱火でじっくり煮込む。 | 煮汁をたっぷり吸わせる。 |
せり | 根元を切り落とし、食べやすい長さに切る。 | 最後に加えてさっと煮る。 | 火を通しすぎると香りが飛ぶので、鮮やかな緑色が残る程度に。 |
だし汁、しょうゆ、砂糖、みりん | – | 鍋に入れ、煮立てる。 | – |